コラム:トリノに舞い降りた怪物
その前兆はあった。
C・ロナウド獲得のニュースが世に出る前、ユベントスはシーズンチケットの価格を30%引き上げた。
ロシア・ワールドカップ開催中ということもあり、このニュースは大きな注目を集めなかった。
だが、「?」が頭に浮かんだユベンティーニは少なくないはずだ。
だからといって、この時点でバロンドールを5回も獲得したサッカー界のアイコンが、ユベントスに来るとは夢にも思わなかったのではないだろうか。
急転したのは日本時間6月30日だろう。世界各国のメディアは一斉に「C・ロナウド、ユベントスへ」というニュースを報じた。日本メディアも例外ではない。
ガセネタにしては幼稚すぎ、飛ばし記事にしては奇異荒唐なニュースが日を追うごとに輪郭が作られてゆき、色彩を帯び、そして現実となった。
契約解除金は10億ユーロともいわれたが、およそ1億ユーロほどの移籍金で済んだ。
このビッグディールには世界有数の代理人ジョルジュ・メンデスと、ユベントスのフロント陣が大きく関わっているのは周知のとおりだ。
Juventusイタリア紙を中心にこの移籍の舞台裏を徐々に明かしている。
まず昨年12月にパベル・ネドベド副会長がC・ロナウドに直接“話”をし、ユベントス移籍を強く要望したようだ。
選手個人がメディアに明かしていない葛藤があるのは、想像にむずかしいものではない。
「サッカー選手の夢のクラブ」レアル・マドリーでCL2連覇を成し遂げた。「しかし、自分は本当に必要なのか」。
そしてフロレンティーノ・ペレス会長は、稀代のスーパースターの年俸の値上げを渋った。
そんなとき、*バロンドーラーからバロンドーラーへ誘いがあったら、心に響かない理由が見当たらない。
このときの交渉が、レアル・マドリーの背番号「7」の心に引っかかっていたのは、ほぼ間違いないはずだ。(*ネドベドは2003年にバロンドールを受賞)
根拠まではいかなくとも、今シーズンのCL準々決勝1stレグ、アリアンツ・スタジアムにおいてスーパーゴールで2点目を叩き込んだ際、スタンディングオベーションを受けた。
C・ロナウドはこの現象に深く感動し、そして胸に手を当てて、感謝を示している。
言うまでもなく、メルカートは水面下で進められる。どの選手も口に出せない「秘事」を心に忍ばせる。
実際、マドリードに居を構える『MARCA』は7月4日「C・ロナウドは今年1月にレアル・マドリー退団を決めていた」と報じている。
およそ半年前に、そのニュースを取り上げたメディアは記憶にない。
ネドベド副会長のユベントス移籍の場合は例外として、メルカートとは、いつの時代も選手個人とフロント陣で行われるものである。