コラム:トリノに舞い降りた怪物
その予兆はあった。
UEFAチャンピオンズリーグ(CL)決勝戦終了後、イギリスメディア『Sky』のリポーターからマイクを向けられたクリスティアーノ(C)・ロナウドはレアル・マドリー退団をほのめかした。
記者から「今後もレアル・マドリーはあなたを中心に勝ちつづけるべきですよね?」という質問に少し考え込む表情をみせた。
少し、間隔をおき「今はこの瞬間を味わいたいから後日、僕を支えてくれたサポーターに向けて話をするよ」
「とにかくレアル・マドリーでプレーできて本当に良かった。また後日改めて話すよ」と“過去形”で、その質問に答えた。
リポーターはギョッとした様子をみせ「これでお別れということですか?」と聞き返す。
すると今度は、その質問をさえぎるように「いやいや、今は仲間たちと勝利に浸かりたいんだ。後日、答えを出すよ」と答える。
しかし、その表情は口もとだけの笑顔で、心からの笑顔にはほど遠いものだった。
イギリスメディア『Sky』は、ご存知の通り世界を席巻する大メディアだ。名うてのリポーター陣を揃える。
C・ロナウドの答えを加味し、今度はキャプテンのCBセルヒオ・ラモスにマイクを向ける。
「『ここでプレーできて良かった』とクリスティアーノは退団を示唆するコメントを残しましたが、何か発表はありそうですか?」と質問すると「ただ今シーズンの総括をしたんだと思う。それ以上のことはないよ」と笑ってみせた。
Mirrorつづけて「それ以上の意味があるなら、それは本人が明らかにするはずだよ。彼はゴールを決めても決めなくても重要なチームの要で、長年それを示してきた」とコメント。
そして「ここ以上の場所はないと思うよ」と名実ともに世界一のメガクラブ残留に自信を覗かせていた。
チームの副キャプテンのマルセロも、盟友の意向を踏まえ、フロレンティーノ・ペレス会長に向け「C・ロナウドが退団したら、俺もここ(レアル・マドリー)を去る」とコメントしている。
そして監督のジネディーヌ・ジダンは試合後の記者会見で「ロナウドから退団を示唆する発言がでましたが、彼はチームに残ると思いますか? また今夜このような発言が出たことに不快感はありませんか」と問われる。
すると笑みを浮かべながら「今はそういったことはまったく頭にない。私が感じているのは今日、チーム全員でこの偉業を成し遂げたことだ」
「それ以外のことは然るべきときがきたら、だね。ただあえて(その質問に)答えるとしたら、クリスティアーノは残るべきだね」と笑顔で答えた。
悪く言えば“薄ら笑い”に近い笑顔だ。
その数日後、前人未到のCL3連覇を成し遂げたフランス人監督はレアル・マドリーに別れを告げている。
ひょっとしたら、ジダンはクリスティアーノが移籍することを知っていた可能性は高い。