コラム:ユベンティーノにとってのCLファイナル-前半-
どの大会でも決勝戦に進出すれば、悦びを爆発させる選手を見るのは珍しい光景ではない。優勝という最大の名誉を手に入れたわけでなくとも、抱き合い、歓喜の輪をつくり、勝利の悦びを仲間とともに分かち合う。感極まってピッチと“抱擁(ほうよう)”する選手もいる。
今季のCL(欧州チャンピオンズリーグ)では、12年ぶりに決勝戦進出を決めたユベントスの選手たちのなかでもピッチと抱擁する選手がいた。また、12年という時間を埋めるかのように、歓喜の輪をつくり悦びを爆発させていた。その前日に行われたもう一方の準決勝では、すでにその場を幾度も経験し4年ぶりに決勝進出したバルセロナの選手たちは、淡々とそれを祝っているように見えた。
12年前の2003年でもファイナリストになったが、今回とは違い、淡々と決勝戦進出を祝っていた印象が濃い。その5年前の1998年、3年連続でファイナリストになっていた名門は、不振だったカルロ・アンチェロッティを更迭し、マルチェロ・リッピをふたたび招聘(しょうへい)していたことが起因している。
リッピは1995年から1998年までの4年間でCLファイナリスト3回、制覇1回、スクデット3回、コッパ・イタリア制覇1回といった華々しい功績を収めていた。ユベントスはこの名将をふたたび招聘し、国内はおろか欧州での地位も確固たるものにしていた。
2001-02年の“再”就任初年度にスクデットを奪回すると、翌シーズンは連覇に成功。その最中のCL準決勝では、前回王者レアル・マドリーをトータルスコア4−3で打ち破り、決勝戦に歩を進めていた。
1998年、レアル・マドリーに敗れて以来の決勝進出。スタイルこそ異なるが、今年のバルセロナのような雰囲気が漂うチームだった。第2の黄金期を築いていたリッピに導かれたチームは欧州での復権を見事なまでに果たし、前回王者を倒しての決勝戦進出も「当然のこと」と言わんばかりの風格がこのチームにはあった。だからこそ選手たちは、今回のように悦びを爆発させなかったのだろう。
ただ、1人を除いて。
準決勝の試合終了のホイッスルとともにただ1人泣き崩れ、MFアントニオ・コンテによって抱き起こされた選手こそ、チームの心臓であり、この年の活躍によりバロンドールをも獲得するMFパヴェル・ネドベドその人だった。
愚直なまでに目の前の試合にその全てを出しきるプレースタイルが仇となったのか、後年「あの時は累積警告のことを全く考えもしなかった」と振り返っている。
この試合の73分、決勝点となる3点目を決めたチェコ人はその9分後、MFスティーブ・マクマナマンへのファウルにイエローカードを提示され、ネドベドは累積警告によって決勝戦欠場を余儀なくされる。この悪夢の宣告はユベンティーノのみの思い出ではなく、多くのサッカーファンの心に残り、現在ではCL今昔物語として紹介されている。