コラム:ユベントスの「系譜」を感じさせる怪物の出現
著者:J-JOURNAL 編集部 山口 努
チーム作りには、時間がかかるものだ。
しかし、「イタリアの恋人」として愛されるビアンコネーリには、その時間すら許してくれない実情がある。
現在ユベントスを復調させつつあるマッシミリアーノ・アッレグリ監督の言葉を借りるなら、「カルチョは悪魔が作り出したもの」になるだろうか。
この指揮官も友人の言葉を借用しているようだが、この「言葉」は試合展開を指したものである。
しかし、チーム作りにも当てはまらなくもない。
期待していたジョカトーレが、望んだような成長曲線を描けなかった。
または、不幸な怪我を負った、など挙げればキリがないことはこれまでのフットボールの長い歴史が示している。
ユベントスのクラブ史上、おもしろいように結果を残す18歳のジョカトーレが出現した。
直近のコッパ・イタリア準々決勝フロジノーネ戦では華麗なダイレクトボレーを決め、79分に交代を告げられる。
すると、ピッチを去る際スタンディングオベーションを受けた18歳のジョカトーレが、これまでいただろうか。
筆者は記憶にない。
MFケナン・ユルディズは現在、ユベントスを代表するジョカトーレへの階段を上がっているそのときだろう。
この18歳のトルコ人ジョカトーレは今シーズンよりトップチームに帯同するが、アッレグリ監督の起用は慎重そのものだった。
試合最終盤の限られた時間に出場させ、徐々に「セリエA」の雰囲気に馴染ませることが指揮官の“狙い”だったはずだ。
途中投入は6試合。最長で15分、これはスコアレスドローに終わった第7節アタランタ戦でのものである。
今シーズンの前半戦が終わりに近づいた2023年12月23日、セリエA第17節でユルディズはついに先発出場を果たした。
FWフェデリコ・キエーザの負傷に伴い、“急遽”先発でピッチに立つことになったことを付け加えるべきだろう。
ユルディズの“盟友”の集まるフロジノーネとの一戦で、3人のディフェンソーレ(DF)を華麗に抜き去るとニアをぶち抜き、豪快にネットを揺らし先制点をもたらしている。
翌節ローマ戦も先発出場するも不発に終わったが、コッパ・イタリアベスト16サレルニターナ戦では66分にピッチに立つと、“実質”ドッピエッタの活躍をみせた。
アッレグリ監督はかねてより、ユルディズに対し「カルチョのやり方を知っているジョカトーレ」と賛辞をおくっていた。
だが、結果を残し始めると大きな称賛を避ける一方で、「そっとしておくべき」とだけ毎回の記者会見で語っている。
プロビンチャを渡り歩いた現役時代。
そして、長年の監督キャリアから出た指揮官なりの“優しさ”であり、“戦略”だろう。
アッレグリ監督は、世間におだてられ、謙虚さを失い、能力を落としていき、やがて忘れさられたジョカトーレをきっと星の数ほどみてきたはずだ。
だが、ユルディズに至ってはビアンコネーリが獲得前からメディアを賑わせていた存在だったことを記憶している読者も多いことだろう。
このトルコ人ジョカトーレは、10歳で『adidas』社と史上最年少で契約した逸材である。
プレースタイルもさることながら、類まれな端正なルックスもドイツ屈指の世界的なブランドを動かした要因だろう。
この交渉にあたったマッテオ・トニョッツィ氏は以前、ユルディズの獲得は“綱渡り”の交渉だったことを明かしている。