コラム : ユベントスの歴史に名を刻んだブラジル人
著者:J-JOURNAL 編集部 座間 遼祐
寡黙なグエリエーロ(戦士の意)の目からこぼれた涙に、アリアンツ・スタジアムが温かな空気に包まれる。
5月25日に行われたセリエA最終節モンツァ戦は、今季でユベントスとの契約を満了するアレックス・サンドロにとって、ビアンコネーロのシャツを着てピッチに立つ最後のゲームとなった。
「327」という数字は、パベル・ネドベド氏と並ぶユベントスの外国人選手としての最多出場記録であり、この口数の少ないブラジル人SBがユベンティーニに見せた“夢”の数でもある。
9年前、ポルトから2600万ユーロでやってきた24歳が、まさかここまでクラブの歴史に名を刻むジョカトーレになるとは誰も想像しなかっただろう。
おおくの人々がブラジル人に抱くステレオタイプとはほど遠い、“質実剛健”という言葉がよく似合うプレーヤーだった。
あまりメディアなどの取材にも顔を出さず、表情はつねにポーカーフェイス。いわゆる“背中で語るタイプ”の選手だった印象が強い。
それでもこの日、ニコロ・ファジョーリのコーナーキックからヘディングでゴールを奪った直後にはチームメイトたちの腕の中で表情をゆるめた。
「試合前の練習で、ニアポスト側でいくつかゴールを決めたんだ。そしたら(ダニエレ・)ルガーニやテク(ヴォイチェフ・シュチェスニーの愛称)がこう言ったんだよ」
「『ほら、アレックス。キミは今日、今みたいにヘディングを決めてこの試合を上手く終わらせなければいけないよ』ってね」
「そしてそれが実現した。みんなには本当に感謝しているよ」
モンツァ戦のあと、感慨深げな表情を浮かべながらそう語る彼の目には涙が浮かんでいた。
寡黙であまり表に出てくるイメージが薄いサンドロだが、個人的に好きなエピソードがひとつある。
ユベントスの練習場であるコンティナッサではおおくのティフォージが、いわゆる“出待ち”を行っているのだが、もちろん選手全員がファンサービスに応じてくれるわけではない。
知り合いの日本人ユベンティーノも何人かここを訪れていたが、“お目当て”の選手には会えなかったという話はよく耳にする。
しかしそこで「誰とも会えなかったの?」と尋ねると、皆決まって「サンドロだけ出てきてくれた」と返してくるのだ。
それも一人や二人だけではなく、何人ものユベンティーノがこう答えてくるものだから、それが少し愉快であり、筆者を温かい気持ちにさせてくれた。
コメント
素晴らしい。
それにつきます。
またこんな素晴らしいコラムお願い致します。