コラム:ユベントスとフランス人選手と黒猫
フランス人選手とユベントスとは、切っても切れない密接な関係にある。ユベントスのUCL(欧州チャンピオンズリーグ)制覇の歴史を紐(ひも)解くと二人の中心選手がいたことは周知の事実となっている。
将軍の名で知られたミッシェル・プラティニ氏は1984/85シーズンにユベントスに初のビッグイヤーをもたらした。それから11年後の1995/96シーズンにはディディエ・デシャン氏を擁し、2度目の欧州制覇を成し遂げている。
リリアン・テュラム氏、ダビド・トレゼゲ氏といった2000年代を代表する選手たちも在籍し、近年ではDFパトリス・エヴラがいて、多額の移籍金をクラブにもたらしたポール・ポグバが挙げられる。
そして忘れてはならないのがジネディーヌ・ジダンだ。
現在レアル・マドリーを率いるジダンの名を知らないサッカーファンは皆無だろう。1996年にユベントス入団後、瞬(またた)く間に名声を得たジョカトーレは、その在籍5年間で数多くのタイトルをクラブにもたらしてくれた。(コラム:世に知らしめたユベントスの移籍)
代表チームでも1998年、母国フランスに初のワールドカップをもたらし、2000年の欧州選手権ではプラティニ氏を擁した1984年大会以来となるタイトルを獲得し、国際舞台でその名を不動のものとする。
NeoGAFただ、ユベントス在籍中2つのタイトルを獲り逃している。コッパ・イタリアとUCLのタイトルだ。後者は、選手として真の名声を得るに必要不可欠なタイトルだが、在籍5年間で決勝戦に2回進むものの両大会とも準優勝に終わっている。
その不名誉な偉業にフランス・レキップ誌は、ジダンを不吉な象徴として「黒猫」と揶揄(やゆ)したのは有名な逸話だ。その後の2001年、当時史上最高額の移籍金でレアル・マドリーに移籍すると加入初年度にいきなりUCL制覇を成し遂げている。
ところが白い巨人の一員となりユベントスと対戦すると、なぜか勝てていない。2002/03シーズンの準決勝では2戦合計3-4で敗退し、2004/05シーズンではベスト16で相まみえるも2-3で古巣には煮え湯を飲ませられている。
そもそもユベントスにとって、レアル・マドリーは相性が良い相手という事実はある。2014/15シーズンの準決勝では3-2で勝利している。このときジダンは現バイエルン・ミュンヘン監督のカルロ・アンチェロッティの隣に座っている。
だが、コーチではなく監督として白い巨人を率いるようになってからのジダンは、輝きを放っている。
昨シーズンの1月からチームを任されると、監督として初のUCLではベスト16でローマを2戦合計4-0で一蹴すると、準々決勝ヴォルフスブルクでは1stレグを0-2で落とし絶体絶命のピンチを迎える。
Soccer Ladumaしかしその窮地を救ったのは他でもない絶対的なエース、クリスティアーノ・ロナウドだった。2ndレグではハットトリックを達成し3-0で劇的な勝利をもたらしたのは記憶に新しい。
このときC・ロナウドは「ジダンには何か特別なものがあると思う。近年のレアル・マドリーの実績を考えてもそうだ。彼の経験値は、チームにプラスα(アルファ)をもたらしてくれた」と褒めちぎっている。
また「監督の愛情を感じるよ。監督としてまだ過渡期にあるかもしれないけど、すでにチームに成長がみられるので僕も本当に嬉しいよ。選手としてのジダンを尊敬していたし、現在は監督としてのジダンを尊敬している」と想いを寄せている。
ラファエル・ベニテス氏がレアル・マドリーから去ると「ジダンのほうが良い。理由は聞かないでくれ」と公言していたエースは「ジダンは良いときも悪いときも試合の受け止め方には素晴らしいものがある。これからもレアル・マドリーで監督をつづけられることを祈っているよ」と現在と変わらぬ好意を1年前から寄せている。
The New Indian Expressジダンの手腕はそれだけではない。昨年の4月から今年の1月までの40試合にわたり公式戦の無敗をつづけたのは、並大抵の監督ではないことを如実に物語る記録だろう。
また、昨年12月クラブ・ワールドカップを制覇したとき、ジョゼ・モウリーニョが在籍した3年間を超えるタイトル数を11ヶ月にして獲得できたのは“もっている”だけでは説明に乏しいはずだ。
今シーズン、5年ぶりにリーガ・エスパニョーラ制覇をクラブにもたらしたジダンは、驚くべき数字を残している。リーガ全体を通して20人もの選手が出場時間1000分を超える成績で優勝をもたらしている。
この結果はバルセロナの18人、アトレティコ・マドリードの16人を大きく突き放すものだ。特定の選手にだけチャンスを与えるのではなく、他の選手へのケアも怠らずに巧みなローテーション制を機能させ、全員でリーガ制覇を成し遂げた何よりの証拠だろう。
Sky Sportかつてユベンティーノの心を鷲づかみしたジダンは、今シーズンのUCL決勝戦でレアル・マドリー史上屈指の監督として、ユベントスの前に立ちはだかることが決まっている。
思い返せば1995/96シーズンから1997/98シーズンまで3年連続で決勝戦まで進んだユベントスの最後の相手がレアル・マドリーだった。19シーズンも前の話である。
当時のレアル・マドリーは1965/66シーズン以来優勝から遠ざかっており、実に32シーズン振りに欧州復権を目指していた。現在とまったく逆の立場にあるのだ。
ジダンは古巣ユベントスとの決勝戦を前に「ユベントスはまだ私の心の中にある。私はユーベで男になれたし、より優れた選手にしてくれた」と当時と変わらない謙虚な姿勢をみせている。
ジダンは現役時代、ユベントスにUCL制覇をもたらすことはできなかった。運命の皮肉か、19年前、オランダのアムステルダム・アレナで行われた決勝戦で敗れたレアル・マドリーを現在は率い、ディフェンディングチャンピオンとして“心のクラブ”を迎え撃つこととなった。
今から19年前の1998年5月20日。あの日オランダのピッチにいた“黒猫”は、2017年6月4日、カーディフのミレニアム・スタジアムのピッチにふたたび現れるのだろうか。
著者/Juventus Journal 編集部 山口 努
コメント
以前ジダンがインタビューで、レアルでCL優勝出来たのはユーヴェでの準優勝があったからだとコメントしているのを見ました。翻訳のニュアンスから、ユーヴェを踏み台にしたように受け取れてしまい、それからジダンが好きになれないんですよね…
なんにせよジダンの前で3冠達成したら気持ちいいでしょうね~
RYOさん
ご拝読ありがとうございます!
ジダンの前で3冠を決めて頂きましょう!
きっとジダンは往年の”黒猫”ぶりを発揮してくれることでしょう。
愛すべきZizou、あのマドリーもうまくまとめた手腕は大変立派です。ただ、今回の我々は、19年前の借りを返す番です。
あのMijatovicのゴールの悔しさは忘れていません。体調整えて、頑張ってもらいたいです。
pipeさん
ご拝読ありがとうございます。
仰るとおりです。
19年前の借りを今夜返して貰いましょう!
選手としてのジダンは素晴らしいですが、監督としてのジダンには疑問的です。100分以上しかも、かなりレベルの高い選手を擁しているのにバルサと最終節までもつれましたし、クリンシートの試合は数えるほどで圧倒的な個によって勝っている訳でそれは、ジダンの功績ではなくて、レアルのお金と選手によって勝っていると思います。勿論そんななか、2季連続CL決勝進出は凄いですがレアル以外のチームでは勝てないと思います。カリスマ性はありますが、戦術は大したことないですし凄い監督ではないと思います。アレッグリの方が明きらかに良い監督です。きっとカーディフでも勝ってくれると思います。
ユリさん
いつもご拝読ありがとうございます!
私もアッレグリのほうが良い監督だと思っています。
ただ、ジダンはユベントス時代から好きな選手なので、どうしても感情移入してしまいます…。
ですが今日はユベントスが勝ち、ユベンティーノたちにとって素晴らしい夜明けを迎えられると信じております。