コラム:ユベントスの指揮官が流した涙
著者:J-JOURNAL 編集部 山口 努
ビアンコネーリを率い、涙を流したことをみたことがある指揮官は、筆者の記憶で申し訳ないが3人しかいない。
アントニオ・コンテ、マッシミリアーノ・アッレグリ、そしてマウリツィオ・サッリだ。
それ以前は、その瞬間すら与えられなかった印象が濃い。
「常勝軍団」を率いることは、勝つことこそが義務であり、マルチェロ・リッピもカルロ・アンチェロッティもつねに怒りを感じる表情が勝手ながら思い出される。
カルチョ・スキャンダルを経験し、セリエBからセリエAに導いたディディエ・デシャンは当時、笑顔を絶やさなかった“青年監督”という印象が濃い。
「泣く」ということに無縁な環境で、「これから」というときにクラブを追われる存在となった。真相は分からないままである。
その後の監督は、自信は感じるが結果が伴わなかった。これまでの築いてきたクラブの遺産を食いつぶすように徐々に成績を落としていった。
無論、彼らが涙を流した記憶はない。
ユベントスの指揮官が涙を流す場面を初めて目にしたのは、コンテだった。
「大丈夫だろうか?」と就任を懐疑的に思ったことを謝りたくなるほど、劇的に復活させてくれたのは2011/12シーズンのことだ。
そして2012年5月6日、カリアリを2-0で破り、無敗優勝という大記録でスクデットを奪還してみせた。
カリアリ戦の試合終了間際だったと思う。
この“冷徹”な目をした熱血漢の目に光るものがあったのを、覚えているユベンティーニは少なくないはずだ。
現役時代から、笑うことがあっても目は笑ってない印象が濃かったイタリア人、は愛するクラブにスクデットを奪還したことで涙腺が緩んでしまったのだろう。
監督キャリアをスタートさせ、初のビッグクラブ就任が古巣ユベントスであり、後世に残る大記録でキャリア初タイトルを獲得してみせた。
ユベントス・スタジアム(現アリアンツ・スタジアム)で迎えた最終節アタランタ戦では、この日が「ラストゲーム」と囁かれたアレッサンドロ・デル・ピエロに注目された。