コラム:決勝戦のピッチに忘れたもの
UCL(欧州チャンピオンズリーグ)決勝戦。前半は1-1のスコア。互いにサッカーの魅力を凝縮させた素晴らしい内容だった。ユベントス、レアル・マドリー、両ファイナリストとも持ち味を存分にみせ、後世まで語り継がれる決勝戦を予想したユベンティーノも多かったはずだ。
しかし、童話シンデレラのごとく、美しいドレスも、ガラスの靴も、カボチャの馬車も後半に入ると、ユベントスが今大会のファイナリストへと駆け上がった華麗なる道のりまでもが、夢まぼろしのごとく無に帰した。
悲願の欧州制覇を夢みた前半戦、魔法が解けた後半戦、そんな決勝戦だった。
大会連覇を目指していたレアル・マドリーは狡猾(こうかつ)で、選手層、実力ともに一枚も二枚も上手(うわて)だったことは認めなければならない。彼らは、カルロ・アンチェロッティが率いたときの白い巨人とは別のチームだった。
DFマルセロに高い位置取りをさせ、ユベントスが得意としてきた右サイドからの攻撃を封じ込めた。華麗な同点弾をもたらした左サイドのFWマリオ・マンジュキッチはチャンスメーカーではないため、レアル・マドリーに脅威を与えるにはほど遠かった。
RedGol頼みのFWパウロ・ディバラも初の決勝戦であり、大舞台での気負いが感じられ、本来のアンタッチャブルな存在にはほど遠かった。ゲームメーカーのMFミラレム・ピアニッチも試合終了後に分かることだが、膝に怪我を負っていたこともチーム力を半減させた。
後半に入りギアを一段も二段も上げてきたレアル・マドリーに21年ぶりの欧州制覇を夢みたチームとは思えないほどの惨敗を許した。MFカゼミーロのロングシュートがMFサミ・ケディラの足に当たるなど、運のなさもあったとはいえ完膚なきまでに夢儚く散った印象が濃い。
GKジャンルイジ・ブッフォンも試合直後のインタビューでは、しゃがれた声で「後半にアンラッキーなことが起きてしまった。とても残念だよ。だが、この大会で優勝するためにはどんなことでも乗り越えねばならない」と話している。
試合前、ユベンティーノが危惧していたことがすべて的中してしまったのではないか。たとえばエースのディバラの不調。たとえばFWクリスティアーノ・ロナウドの破壊力。そしてユベントスの選手層の薄さ。とてつもなく哀しいが、現実として受け入れなければならない。
90Minただ、来シーズンはこの教訓が糧になる。
今年1月から好調を維持した、いわゆる“五つ星の攻撃陣”はある種で偶然の産物にすぎないからだ。UCLベスト16のポルト戦で得点を決め、マッシミリアーノ・アッレグリが期待していたFWマルコ・プヤカの長期負傷離脱などの不運も重なり、効率的なターンオーバーを行えなかった。
決勝戦での敗因はすべて結果論であり、なんの慰(なぐさ)めにもならない。だからこそ今夏の補強には注目したい。すでにFWドウグラス・コスタ、攻撃のあらゆるポジションをこなせるFWアンヘル・ディ・マリア、そして説明不要のMFアンドレス・イニエスタが現在リストアップされている。
どの選手も現在の3-4-2-1、4-2-3-1どちらでもフィットしそうな面々だ。少なくとも“ディバラ頼み”の現チームから脱却しなければ、欧州制覇は不可能に近いことは決勝戦によって証明してしまった。
ディバラと並ぶ才能の獲得が急務となるだろう。アッレグリも試合後の記者会見で「前半の我々は素晴らしかった。しかし後半に入るとテンポを上げた相手に攻撃の起点を作れなかった」と認めている。
攻撃の起点は他でもない若きエースのディバラであり、同等の才能を仮に獲得できれば、決勝戦で遮られたパスコースが大幅に増える。また獲得することによってディバラ自身も新しいライバルと切磋琢磨できるのは容易に想像できる。
そして何より忘れてはならないのが、負けるたびにチームをアップデートしてきたアッレグリの手腕だろう。
Rapplerアッレグリの契約更新、今シーズンを共に戦った多くの主力が来シーズンもビアンコネロのユニフォームを纏(まと)って戦ってくれることを願わずにはいられない。UCLの決勝戦のピッチを踏める選手はそう多くはない。だからこそ今回の惨敗の経験を来シーズンの糧にして欲しい。
童話シンデレラは、どん底にいた少女がお城での舞踏会を機に王子と結婚するお話である。10年前どん底にいたユベントスと多くの部分で共通点がある。
今シーズンの戦力、そしてこれから加わるユベントスの有能なフロントの眼力に叶った新戦力たちとともに、UCL決勝戦の舞台へ辿り着くことこそが、来シーズンの至上命題になる。
今シーズン、前人未到となるセリエA6連覇、コッパ・イタリア3連覇は成し遂げた。だが、それらの偉業でも満足できないのは選手、監督、チームスタッフだけではない。我々ユベンティーノたちも満足できていないはずだ。
アッレグリは試合後の記者会見で「決してサイクルが終わったわけではない。まだこのチームは結果を残すことができる。改善すべき箇所は改善し、もっと高いレベルに到達しなければならない。再出発の準備はできている」と来シーズンへの自信を覗かせている。
かれこれ21年間、“イタリアの老貴婦人”が心を焦がすほど求める「ガラスの靴」は、UCL決勝戦という舞踏会にしか落ちていないのだ。
著者/Juventus Journal 編集部 山口 努
コメント
通常トーナメントでは運の要素も大きいですが今回は全てがマドリーに劣っていたと思います。選手層の薄さからくるターンオーバー不可による選手の疲労、選手の個の質、場数等。
アッレグリ監督と契約延長した以上は真のワールドクラスの選手の獲得、主力を遺留させることが必要不可欠だと思います。ブッフォンの後継者問題や、各ポジションでの世代交代を含めた補強も考えると限られた予算の中でどれだけのスカッドを揃えれるか。今夏は例年以上にフロントの手腕が問われるかと思います。
ただ、マドリー並みの選手層のあるチームは地球上に存在しない気もしますが。
素晴らしいコメントを、ありがとう。
山口さん、ありがとうございます。
今週は元気のない週明けでした。
何が足りなかったか、どうすれば追いつき、追い越せるのか、
そもそも彼らに追いつくことは可能なのかなど。
私が考えることではありませんが、つい考えてしまっていました。
20年前、Dortmundにまさかの負けを喫して決勝5連敗。
歴史を作る難しさ、Madridの強さを噛み締め、次へ進もうと思います。
いつも本当にありがとうございます!
pipeさん
こちらこそいつもご拝読ありがとうございます!
僕は追いつけると信じています。
アッレグリと、今夏のフロントの力を信じましょう!